二ノ宮知子さんのファミリーエッセイ『おにぎり通信』。
この漫画、育児漫画としては紹介しにくいです。正直、あの『のだめカンタービレ』を描いた二ノ宮知子による育児漫画!!…などと思って読むと「なにこれ…?」…て感想を持つ人が多いと思うのです。
描かれるのは子どもではなく、「家庭を顧みないダメ親父」といった方がしっくりくる二ノ宮さんの姿。更に、育児を夫が担当し、仕事を二ノ宮さんが担当していることで生じる違和感もあります。
でも、私は好きな作品です。
作者が作品に慣れてきたのか、息子さんたちが成長してキャラが立ち始めたのか、2巻の方がおもしろかったです。
自分(専業主婦)と役割が近い、夫・POMさんの言動に共感しながら読みました。
一方で、メインで働き家計を支える二ノ宮さんの姿を見ながら、外で働く自分の夫の気持ちを想像しました。
全144ページ、802円(税込)です。
●出版社サイトで(1巻掲載の)1話、2話が試読できます
amazon ★★★★(4.0) ※レビュー2件
楽天 ★★★★★(5.0) ※レビュー6件
【内容紹介】
ママが仕事に専念できるよう、家事育児はスーパーパパが。
実働短い子育て参加ながら、観察眼は変わらず鋭角!
ファンキーキュートな2人兄弟含め、4人家族それぞれが“愉快な面々"過ぎる!!
二ノ宮知子が贈る抱腹絶倒ファミリーエッセイ!
【感想】
1話8ページ×16話分と、4コマ漫画6本、コラム6本を収録。
いや~。おもしろかった。満足満足。
温泉旅行、沖縄旅行、スキー旅行など、旅行話が3本もあって。
親が子育ての疲れを癒されたくて足を運んだものの、色々すったもんだあって「仕事の方が楽」と想いを巡らせるのはリアルだ…。
荷物が多くて外出するだけでもいっぱいいっぱいなのに、年に3回、2人の子どもを連れて旅行に行っているのはすごいな…。
子どものおもちゃの話(ライダーベルトやスマホなど)も笑わせてもらいました。
しかし今更「仮面ライダーW」にハマるとは…。育児漫画の中で高瀬志帆さんも平成ライダーにハマったと言ってたし、親がハマるパターンは多いのですね…。
でも、今回は「おもしろかった」だけでないのです。
ダメ親父な二ノ宮さんのエッセイ漫画には全く期待してなかった(失礼)「ハッとする言葉」がちらほらありました。
「変わるべきは親のほう」とか…。本当にその通りで。
ラーメンとか、時間が経つと食べられないものを注文した時に限って不思議と何かが起きるのよね…。
作者と家族のプロフィール
『のだめカンタービレ』でおなじみの二ノ宮知子さんは1969年生まれの45歳。
2008年・39歳くらいで長男のコウくん。42歳くらいで次男のヒロくんを出産されたようです。
家族は、二ノ宮さん、夫・POMさん、コウくん、ヒロくんの4人。
2巻では長男・コウくんが4~5歳、次男・ヒロくんが1才2ヵ月~2歳すぎまでが描かれます。
夫婦の役割分担は、妻が仕事担当、夫が家事・育児(主夫)担当+妻の仕事のサポートです。
後述しますが、私はこの「母親が仕事を担当、父親が育児を担当する」という夫婦の形が意外とクセモノだと思っています。
作品の特徴であり個人的に評価する部分である反面、単純に読めない(楽しみにくい、おもしろくないと感じる人が多い)要因の一つだとも思います。読んでいると自分でも意識していない「常識」がひょいっと顔を覗かせるんですよね…。
作者・二ノ宮さんの姿は『まんが親』の吉田戦車さんと近い気がしました。家に仕事場が併設されているから子どもの様子も見れるけれど、基本的に仕事優先。
お互いの漫画の中で登場したりしてるから、余計にそう感じるのかも知れません。
専業主婦な私は夫・POMさんに共感しながら読みました。
子どもにイライラして角が生えるのは女性だからではなく、育児担当だからなのですね…(四六時中だしな…)。
2巻ではこのカット、すごい好きです…。POMさんトトロ…。
長男・コウくんは食いしん坊でマイペース。ちょっぴり毒舌なのは4歳児だからだろうか…?
「この人を馬鹿にした態度…高田順次と似てる??」…て表現はおもしろい。
次男・ヒロくんは野生児っぽいですね…。下の子はお兄ちゃんに揉まれて強く育つということだろうか…。
ヒロくんが2歳になり、兄弟喧嘩が勃発するようになっているせいか、全体に騒がしい印象でした。
男児2人だと、毎日が競争というか喧嘩というか。大変そうだなあ…。
伊藤理佐・吉田戦車一家とのはなし
『おにぎり通信 1巻』や『おかあさんの扉 3巻』感想でも書きましたが、伊藤さんと二ノ宮さんって、本当に仲が良いですね…。
今回は『お母さんの扉 3巻』にも描かれていた「吉田一家のお泊まり」エピソードがあって嬉しかったな~。
二ノ宮さんが描いたあーちゃん、かわいい。そして髪型はパッツンなんだね…(『まんが親』の絵の方が雰囲気が近いというか…)。
あーちゃんは伊藤さんに似ているようですね。
「お母さんの扉を開けた後もぶれない漫画とエロトーク」…。そうなのね。
※2人が出会った初日のエピソードは伊藤さんの『おんなの窓』で二ノ宮さんが描いていたと思います…。
どうでもいい話ですが、私は『おかあさんの扉 3巻』を読んだ時点では「伊藤さんとあーちゃんの2人で二ノ宮さんちに泊まった」と思っていました。
今回『おにぎり通信』を読んでみたら吉田戦車さんもいて。あれ~?と思って読み直したら、戦車さん、コマの端っこにいましたね…。
『おかあさんの扉 3巻』に描かれていた「あーちゃんとコウくんが一緒にお風呂に入った」エピソード。
『おにぎり通信 2巻』では後日談が描かれています。…なんとなく、あーちゃんは忘れているような気がするな…(※ひどい)。
吉田戦車さんと二ノ宮さん、両者の「子どもといっしょの風呂について」考えが逆なのがおもしろかったなあ。
『まんが親』3巻で戦車さんは(伊藤さんばかりが娘と一緒に風呂に入るので)「独りじめしやがって!」と怒るのですが、
二ノ宮さんは「父親が子どもとお風呂に入るしきたりだから…」ときっぱり拒否。
吉田家のように子どもが1人娘だったら、二ノ宮さんの反応も違ったのかも知れません…。
男児2人との入浴は見るからに壮絶で。湯船につかっても疲れがとれない気がする。毎晩入れてるPOMさん、えらいわ…。
(そもそも、POMさんが「おまえ たまには子どもと風呂に入れよ」と怒っている時点で全然違うもんな…)
コウくんの入院話
2巻で印象深かったのは、長男・コウくんが喘息で緊急入院(5日間)…という話。
育児担当の夫・POMさんが一緒に病院に行き、入院中はずっと付き添い。
二ノ宮さんは締め切りを控えているので家で次男・ヒロくんの面倒をみつつ、家事をこなしながら仕事。
「ママー」と叫ぶコウくんの姿を(テレビ電話=Facetimeで)見ながらも、一度も病院に行かない(正確には行けない…)。
読んだ直後の感想としては。
……え?病院、行かないの??母親なのに?子どもが泣いているのに…?
…。
……。う、うーん。
なんだか納得がいかない。もやもやする…。私が気にし過ぎなのかしら…?
判断としては理解できるけど、なんか違和感がある。そんな感じでした。
そういえば吉田戦車さんの『まんが親』2巻を読んだ時に、似た感想を抱いたな…。夜中、うなされる娘(にゃーちゃん)に対して「うるっせぇ…」と言う吉田さんを見て怒り狂った覚えが…。
今回は怒りはないけれど、もやっとする感じは似ている気がする。
当時、『まんが親』を読んだ私はこんな感想を書いています。
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個人的にこの場面を読んでひどくムカっついてしまい、単行本を壁に叩きつけたくなるくらいでした。ふざけるなと。
私が同じことをやられたら、実家に帰ると思います。ひどい。
ですが、後で冷静に考えると、批判覚悟でこの場面=素の自分の発言を描くのってすごい、と思いました。
隠そうと思えば、作品として描かなければよいのですから。
●『まんが親 2巻』感想
今回の二ノ宮さんの話も、隠した方がよさそうな話、描かなくてもいい話だよな…。
作中で本人が何度も謝っていますが、病気の息子を放って仕事している(病院に行ってない)なんて、読者の反感を買ってもおかしくない話で。
それにしても、心配で病院に様子を見に行きたければ、仕事のスケジュールを調整する(締め切りを遅らせる)ことはできなかったのだろうか…?
…などと考えて、時期的に(多分)新連載を描いてる時期ではなかろうか?…と思い至りました。
※昨年秋に講談社Kissで『七つ屋志のぶの宝石匣』という漫画の連載が始まっています。
新連載だと掲載時期をずらせない上に、告知用のカラー口絵や表紙、巻頭カラーなど、関連した仕事も増えている筈で。
元々、予定していた仕事が多くてスケジュールがタイトで。
コウくんのことは心配、だけどヒロくんの面倒を見て家事をこなしつつ、締切までに仕事を仕上げるだけでも、大変な状況だったのではなかろうか…?
……うん。
私が同じ立場でも、病院に行かずに仕事すると思います…。
家族の為にも心を鬼にして、泣きながら仕事を終わらせる気がする(終わったら会いに行くけれど)。
ここまで考えないと納得できなかった自分もアレですが、一家の大黒柱として、仕事担当として。どれだけ子どもが心配であっても行けない場合もあるのだなあ…と考えさせられました。
話の中で、二ノ宮さんは何度も何度もコウくんに謝っている分、色々なことに納得できた後は読んでいて切なくなりました。
嫁と母親、世間の常識
コウくんの入院話は、変な話だけど「最低な母親だ」と責められたい…などと想いながら描いたのかもしれないなあ、と思いました。
…というのは、別の話でそれっぽい独白?があって。
今年2月。かつてない修羅場スケジュールの中、POMさんがバンドのライブで家を留守にすることに。
愛媛からPOMさんのご両親を呼び寄せ、留守中の家事と育児をお願いすることになった…というエピソード。
義理の両親に色々なことをお願いするだけお願いして、自分は仕事部屋にこもる…。
「時間があったらヤフー知恵袋とかで」「自分で自分を吊し上げたい」
自分の仕事に誇りを抱きつつも、ふと「母親なのに」「嫁なのに」こんなこと(仕事)していていいのか…?と迷う二ノ宮さんの気持ちが伝わってきます。
読みながら、切なくなりました。
葛藤しながら仕事をしていても、子どもたちの反応は冷たいですし。
入院した時は「ママー」…と泣いていたコウくん、卒乳してなくておっぱいが好きなヒロくんも、元気な時はママがいなくても(パパさえいれば)平気…。
自分は仕事、家事育児は夫という分担。「母が不在でも大丈夫なように育てた」と頭では納得しつつも、寂しいですよね…。
コウくんに子ども部屋を作って1人で寝させるエピソードも、そうだよねえ…寂しいよね…(でも邪魔されずに寝たいよね…)と共感しました。
1巻では二ノ宮さんがダメ親父と化している面が強調されていたように感じましたが、2巻ではこういった葛藤が描かれていて。
読み手が愚痴だと感じない程度に揺れる親心が描かれたことで、ぐっと面白くなったと感じます。
また、二ノ宮さんの気持ちを読むことで、仕事を担当する(普段は育児をしない)うちの旦那さんも、こういう気持ちなのかな…と思いを馳せることが出来ました。
夫婦の役割が我が家と逆であるから生じる違和感もあるけれど、違和感がなくなれば共感しやすく、相手の立場も理解しやすい。
私は男性漫画家が描く育児漫画も好きで何作も読んでいますが、『おにぎり通信』ほど「仕事担当の寂しさ」に共感できないんですよね…。(そもそも、それを描いている人が少ないですが「男性はそう思うんだー」で終わることが多い)。
さじ加減を間違えると「ん?」と思ってしまいそうですが、2巻は笑いと葛藤の描かれ方が丁度いい塩梅だったと思います。
今回は、真面目な考察を中心に感想を書きましたが、軽く読んでも十分楽しめる作品だと思います。
今回でストックは無くなったので、3巻は1年半後かな。楽しみに待っております。